【書評】私の消滅/中村文則
「教団X」や「去年の冬、きみと別れ」等の作品で知られる(まだ読んだことない)
中村文則さんの最新作です。
書店でこの本を見かけ、表紙の雰囲気と文頭の
このページをめくれば、
あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない。
という書き出しを読んで衝動的に購入しました。
書評
読み始めの最初のページで古びたコテージの一室で
主人公が小塚という男の身分証明証と手記を見つけ、
主人公が小塚に成り代わろうとしているのが見て取れます。
そして、文頭の
このページをめくれば、
あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない。
という書き出しから、小塚の半生が書かれた手記を読んだ主人公が狂ってゆくよう話だと勝手に推察していましたが、
いい意味で裏切られました。
どんな話だったか、内容を書いてしまうとこの小説の魅力がなくなってしまうので、
端的にあらすじを書くと、
心のどす黒い闇を抱えた精神科医が淡々と復讐をこなしていく
という感じです。
読んでゆくと話のところどころ引っかかる部分があり、展開についていけなくなることもありましたが、読み進めていくと「そういうことだったのか」と納得できます。
なのでページ数も少ないので、短期間で読み切ることをオススメします。
印象的だったのは、作中主人公が疑問に抱いていた
「好きになってもらう努力をして好きになってもらうのと
催眠をかけて好きになってもらうことは何が違うのか」
という疑問です。
意識があるか無意識かの違いなのか、でもそれらはお互いにフィードバックしあっているから結局同じなのではないか?と苦悩する主人公の徐々に崩れていく感じが顕著になっていく感じがとても印象的で、自分も考えさせられました。
活字ならではの推察を楽しみ、
読み終えたあとの虚無感、やるせなさを感じるような作品でした。
初めての中村文則作品で、好きそうな作風だったので、
過去の作品も見てみようと思いました。