本ですね。

読んだ本の書評みたいなものを自由気ままに、気楽に書いていこうと思います。

【書評】夜行/森見登美彦

あけましておめでとうございます。
新年一発目は第156回直木賞候補作に選ばれている森見登美彦さんの夜行です。

 

夜行

夜行

 

 

あらすじ

京都で学生時代を送っていた男女6人。彼らは京都で毎年行われる鞍馬の火祭に来ていた。そこでメンバーの1人である長谷川さんが突如として姿を消し、捜査の甲斐も虚しく、行方不明になってしまう。
それから10年後久しぶりにあの時のメンバーで鞍馬の火祭行こうということになり、行方不明になった長谷川さんを除いた5人で再び京都に再び集まった。
久しぶりに集まった彼らは鞍馬の火祭までの時間を潰すがてら旅先で起こった不思議な出来事を口々に語りだす。
彼らは皆その不思議な旅先で岸田道生という画家が描いた「夜行」という銅版画の作品に出会っていた。

 

書評

この作品は

  • 行方不明になった妻を追って尾道へ連れ戻しに行ったときの話
  • 会社の先輩らと奥飛騨へ温泉旅行に行ったときの話
  • 夫とその同僚と夜行列車に乗って津軽へ行ったときの話
  • たまたま電車で旧知の男性と出会った天竜峡での話
  • 10年後、現在の鞍馬の火祭の話

の5部作となっており、それぞれメンバーが旅先で「夜行」という連作の銅版画に出会い、その銅版画と同じような光景を旅先で目の当たりにし、奇妙な出来事に遭遇する話を書いています。それぞれの話をそれぞれが思い出話として語ってゆくのが物語の大まかな流れで、それぞれの話はわりと謎を残したまま消化不良な形で終わります。その消化不良感も想定外のラストでなんとなく納得したようなしないような感じでした。

写実的な表現がとても上手く、行ったことのないまちの風景がありありと思い浮かぶようでした。そんなリアルな表現もあり読み進めてゆくと徐々に不気味で不思議な恐ろしい夜の世界に入り込んでしまったのではないかと思い、読んでいて何度か鳥肌が経ちました。

装丁こそ綺麗で幻想的なイメージを彷彿とさせますが、思っていたものとは違い、そこはかとない夜の闇の不気味さや恐怖感を感じさせるホラーなテイストの作品で、読んでいて自分も昔夜が来るのが怖くてなかなか寝付けないことがあったなあと思い出しました。

幻想的でいて不気味な今の時期にもあっている作品でした。

【書評】And so this is Xmas/秦建日子

今回は読み始めた頃がクリスマスシーズンだったので、
「アンフェア」やそして「そして誰もいなくなった」の脚本家などで知られる、
秦建日子さんの新作And so this is Xmasを読みました。

地味にサイン入りです。

 

And so this is Xmas

And so this is Xmas

 

 

あらすじ

クリスマスを目前とした東京を舞台に恵比寿、渋谷と連続爆破テロが巻き起こる。
犯人の要求は総理大臣との対談。
犯人は誰なのか、犯行の動機はなんなのか、そして繰り返し犯人から告げられる

「これは戦争です」

という言葉の意味とは…

 

書評

この作品は様々な人物が登場します。
事件を追う刑事の視点、犯人に脅迫され言われるがままに行動する青年の視点、事件を調べる謎の天才プログラマーの視点、テロに遭遇してしまう人々の視点、と様々な登場人物の目線で作品は進行してゆきます。
それゆえに、時間の流れに沿って進まなかったり、どの人物の話なのかわかりにくくなったりしますが、読み終えるとそのわかりにくさが犯人の正体をわからなくするための構成何じゃないかと。思いました。

 

連絡の手段がLINEだったりテロが起きてもテレ東は通常放送していたり、爆弾が仕掛けられたと報道しているのに現場に群がる人や野次馬Youtuberが現れたりと、平和ボケしている日本のクリスマスにテロが起きたらこんな感じになるのだろうなと思いました。

 

読みながら自分でも犯人を推理し、犯人がわかったときにはわりと納得の行く展開で、
物語は終了します。ですが、エピローグで全く考えてもいなかった事件の本当の真相が明らかになる大どんでん返しがあります。

この本の販売と同時に舞台を上映しているだけあって、
展開にハラハラさせられる2時間ドラマのようなテンポのいい作品でした。

 

読み終えた頃にはクリスマスは終わっていて気づけば大晦日でした。
作中ラストの方である人物からの手紙で

「では、ちょっと遅いけどメリークリスマス。
   そしてハッピーニューイヤー」

という一文がクリスマスが過ぎた今の自分に宛てて送られているような気分でした。

来年もたくさんの作品に出会えることを願います。それでは良いお年を。

【書評】よるのばけもの/住野よる

小説家になろうからデビューし、来年夏にデビュー作の君の膵臓をたべたいが実写映画化する、今話題の住野よるさんの最新作よるのばけものを読みました。

結構表紙のデザインが好きです。

 

よるのばけもの

よるのばけもの

 

 

あらすじ

夜になると手足が6本に目が8つある黒いバケモノになってしまうようになってしまった主人公のあっちーこと安達。
バケモノになった自分に驚くも、その姿にやがて順応するようになり、夜の世界へと出かけるようになる。
ある日宿題を学校のロッカーに忘れてしまったためバケモノの姿で学校へと取りに向かう。
夜の校舎で誰とも出会うことなく教室まで到着し、ロッカーから忘れ物を取ろうとすると、突然背後から女の子に声をかけられる。声の主はクラスメイトでいじめられている矢野さつき。
突然の出会いに2人とも驚くも、彼女はバケモノをすぐに

「あっちー、くんだよ、ね」

とそのバケモノをすぐに主人公だとわかってしまう。
この夜の出会いを経て、主人公は次の日からもバケモノの姿で矢野のいる夜の校舎に訪れる。
そんな不思議な昼休みならぬ、夜休みによって2人の学校生活に変化をもたらす。

 

書評

この作品は昼の学校生活のパートと夜バケモノになった安達と矢野さんの夜休みのパートを交互に行っていくような展開になっています。また主人公のあっちーは毎晩バケモノの姿になってしまいますが、その姿は本人の想像次第で自由自在に変化させたり操ったりできます。そしてこの作品内で幾度となくその能力で問題を解決してゆくことになります。

 

 学校でのヒエラルキーのようなものや、直接的な暴力でなく、先生にバレることのない中高生にありがちな陰湿ないじめの感じがとてもリアルだなあと思いました。

また、いじめられている側を助けるような行いをすれば自分もいじめられてしまう。

そうならないよういじめに加担しないまでも無視をするなどして周りからズレないよう努める主人公ですが、夜休みで矢野さんの本当の姿を知ることで、矢野さんをいじめる周りがおかしいのか、矢野さんを認めてしまう自分がおかしいのかと葛藤することになります。

そんな自分らしさを出せない主人公の葛藤に妙に共感できます。

 

いじめがテーマということもあり、暗い雰囲気になるかと思いきや、矢野さんの明るく間が抜けた雰囲気でそこまで暗さも感じませんでした。
全体を通しての感想としては作中でいろいろと事件や意味深なセリフが多々出てきます。
しかし大半がなぜそうなったのか、なぜ話したのか説明がないまま終わったり、主人公が察しが悪すぎたりして、多少の消化不良感も否めませんでした。
ですが、作品を全て読み終えた後の最後の一文を読んで、そんな消化不良も一気に消えてしまいました。
ストーリー的には後味が良くないながらもスッキリする作品でした。

 

最近は本でもトレーラームービーみたいなものがあるんですね。


「よるのばけもの」 住野よる

【書評】コンビニ人間/村田沙耶香

2016年上半期の芥川賞を受賞した村田沙耶香さんのコンビニ人間を読みました。
調べるまで芥川賞が上半期下半期と年に2回選考しているのを初めて知りました。

 

コンビニ人間

コンビニ人間

 

 

あらすじ

主人公は30台未婚女性、古倉恵子。
彼女は幼少から小鳥の死体を見て焼き鳥にしようと考える割りとクレイジーな言動が目立つ子どもで周囲や両親からも変わった子だと言われてきた。
そのうち彼女は何が悪いのかはわからないけれど、なにもしないことが周囲に迷惑をかけないことだと考え、自ら行動することをやめた。
そのまま大学生になった彼女が、たまたまコンビニのアルバイトの募集を見つけ、アルバイトをすることになる。
コンビニのアルバイトはマニュアル通りに働くだけで周囲からは変な人には思われなくなるという彼女が求める天職であった。
そんなコンビニのアルバイトを何年も続けていく中で周囲の人間を真似することで辛うじて常人を演じることができた古倉だったが、新しく入った男性で新人のバイト白羽と出会う。

 

書評

単純にコンビニで働く女性の話だと思っていましたが、全く違いました。
曇りない主人公が独特の感性で生きて行くその表現やセリフが面白く、
芥川賞選考会で歴代トップクラスの面白さと言わせるだけはあるなあと思いました。

 

中でも一番衝撃を受けた場面は、
度々問題行動を起こす新人のバイト白羽と主人公古倉が会話している場面での一言です。

「あの……修復されますよ?」

コンビニで問題を起こせばクビになるだろうとは思いますが、
主人公は、コンビニは完璧なものであると考えており、その完璧なものを乱すものは排除、つまり修復されてしまうと考えているのでこの表現で話しているのだと思いました。
この主人公の独特の感性からくる表現に、少し鳥肌が立ちました。

 

作中に出てくる新人のバイト白羽が度々口にする
現代社会は皮を被った縄文時代だ」というようなセリフも、
読み進めていくと確かにその通りなのかもしれないと考えさせられてしまいます。

 

また、筆者がコンビニでアルバイトをしていた経験が元になっているというだけあり、
コンビニでの描写はとても細かいところまでリアルに表現されているので、
コンビニでアルバイトを経験したことがある人は共感できる部分もあるのではないかと思います。

 

サイコパスな一面を持つ主人公ですが、少なからず共感してしまう部分も多々あり、
現代社会のあり方や、人間関係の煩わしさを上手く表現できていて面白いなあと感じました。
普通とは何なのかと考えさせられる作品でした。

【書評】羊と鋼の森/宮下奈都

2016年の本屋大賞第一位に選ばれた
宮下奈都さんの作品羊と鋼の森を読みました。

 

羊と鋼の森

羊と鋼の森

 

 

あらすじ

平凡な生活を送っていた外村という高校生
たまたま学校のピアノの調律に来た板鳥というプロの調律師の調律によって生まれ変わるピアノの音色に魅せられ外村は調律師になることを心に決め、調律師になる。
そんな調律師になった外村の成長していく姿を書いた物語

 

書評

羊と鋼の森というタイトルの意味は
羊:ピアノの弦をたたくハンマーに使われるフェルトの素材
鋼:ピアノの弦
森:ピアノの材質
と、このタイトルでピアノを表現しています。

 

この作品を読むまでピアノ調律師という存在をあまり意識したことがありませんでしたが、
世界に名立たるピアノ奏者のあの素晴らしい音色を出す裏側には、
ピアノ調律師の精巧な技術があったのだと認識しました。
素晴らしい音色を出すのにピアノ調律師の存在は不可欠なのだと思いました。

 

個人的に最も感銘を受けた場面は、物語終盤で調律の依頼をキャンセルされ落ち込む外村が「調律師にとって必要なものは何か」と調律師の先輩に尋ねそこで秋野さんという先輩が言った「あきらめ」の理由です。

「どれだけやっても、完璧には届かないよ。どこかで踏ん切りをつけて、

これでおしまい、仕上げ、ってあきらめをつけなきゃ」

このセリフを読んでクリエイティブなモノを創る上でも言えるのではないかと思いました。
どんなプロでも、どれだけ多大な時間を費やしても完璧なものは創れない、
だから、ここ!という場所であきらめる、終えることができるのが本当のプロなのだと思います。

 

作中で外村の憧れる板鳥の目指す音で原民喜さんの引用である

明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、
きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のように確かな文体

というまさにこの作品が表現しているものだと思います。
欲を言えばこの倍くらいの長さで主人公以外の人にももっとフォーカスを当てて欲しかったですが、
なんとも清々しい気分になれる素晴らしい作品でした。

 

【書評】私の消滅/中村文則

「教団X」や「去年の冬、きみと別れ」等の作品で知られる(まだ読んだことない)

中村文則さんの最新作です。

書店でこの本を見かけ、表紙の雰囲気と文頭の

このページをめくれば、

あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない。 

 という書き出しを読んで衝動的に購入しました。

 

私の消滅

私の消滅

 

 

書評

読み始めの最初のページで古びたコテージの一室で

主人公が小塚という男の身分証明証と手記を見つけ、

主人公が小塚に成り代わろうとしているのが見て取れます。

そして、文頭の

このページをめくれば、

あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない。 

 という書き出しから、小塚の半生が書かれた手記を読んだ主人公が狂ってゆくよう話だと勝手に推察していましたが、

いい意味で裏切られました。

どんな話だったか、内容を書いてしまうとこの小説の魅力がなくなってしまうので、

端的にあらすじを書くと、

 

心のどす黒い闇を抱えた精神科医が淡々と復讐をこなしていく

 

という感じです。

読んでゆくと話のところどころ引っかかる部分があり、展開についていけなくなることもありましたが、読み進めていくと「そういうことだったのか」と納得できます。

なのでページ数も少ないので、短期間で読み切ることをオススメします。

 

印象的だったのは、作中主人公が疑問に抱いていた

「好きになってもらう努力をして好きになってもらうのと

催眠をかけて好きになってもらうことは何が違うのか」

という疑問です。

意識があるか無意識かの違いなのか、でもそれらはお互いにフィードバックしあっているから結局同じなのではないか?と苦悩する主人公の徐々に崩れていく感じが顕著になっていく感じがとても印象的で、自分も考えさせられました。

 

活字ならではの推察を楽しみ、

読み終えたあとの虚無感、やるせなさを感じるような作品でした。

 

初めての中村文則作品で、好きそうな作風だったので、

過去の作品も見てみようと思いました。

【書評】グローバライズ/木下古栗

アメトーークの読書芸人で光浦靖子さんがおすすめしており、

個人的にも気になったので読んでみました。 

グローバライズ

グローバライズ

 

書評

12の短い小説をまとめた短編集。
作品は全て突然思いもしないような出来事や現象が巻き起こる。
基本的な描写は情景や行動、会話だけで
なぜこんなことになったのか、どう思っているのか、という心理的描写はほとんどなく
そんな状態で突拍子もない、わけの分からない展開が度々訪れる。

この小説がすごいと思ったのは、一話毎に作品のエグみが強くなっていくため、
一話一話読み進めていくうちに次の突拍子もない展開に期待してしまう。

本当に一話一話読むたびに「これなんなの」とか「何を読んでるんだろう」
と思ってしまうが、それでも筆者の情景や会話の表現がとても秀逸で読み進めてしまう。

なんのために読んでるのかわからない、だけど何故か惹かれる作品でした。